46haの広大な土地で小麦を中心に、ジャガイモや黒大豆、ビート(テンサイ)などの栽培を行なっている「美瑛大西農場」。大正時代から続く美瑛大西農場の4代目として経営を任されているのが、大西智貴さんです。
大西さんは農家の長男として生まれたものの、反発して旭川工業高等専門学校に進学。農家にはならずに、工学系のエンジニアとして自動車部品会社に入社しました。
しかし、就職した会社で北米に留学した際、アメリカのオーガニックファームで農業器具に触れ、改めて農家の道を歩み出すことに。
現在ではお父様から経営を引き継いで美瑛大西農場をスタート。さらに、農業と観光を両立させる平和的な解決を目指して、農家仲間と一緒に、畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」をスタートさせました。
今回は、大西さんに農家のやりがいや、ブラウマンの空庭。についてお話を伺いました。
目次
農家の後継ぎとして見られることに反発し、工学系エンジニアの道へ
2019年にお父様から経営権を引き継いで美瑛大西農場をスタートした大西さんですが、農業の道に進んだのは2010年のこと。
幼いころから周囲の人に「農家の後継ぎ」として見られることに反発し、中学卒業後は旭川工業高等専門学校に進学したそうです。
高校を卒業した後は、そのまま工学系エンジニアとして自動車部品会社に入社し、農業とは違う道へ。しかし、この社会人生活で転機が訪れます。
22歳の時、北米研修に参加した大西さんは、ホームステイ先のカナダの観光リンゴ園で、さまざまな国籍の人たちと一緒に約8カ月間、収穫や選果、規格外品を使ったジュース作りなどを体験しました。
さらに、アメリカのサンディエゴのオーガニックファームで野菜の管理やファーマーズマーケットの販売などを3カ月間手伝い、故郷の美瑛町で見てきた農業とは異なるやり方があることを知り、農業に楽しさや可能性を感じるようになったそうです。
5年間働いた会社を退職したあと、2010年に北海道富良野緑峰高校の農業特別専攻科に入学して、農業に関する専門知識を学びながら、お父様と一緒に小麦生産を開始。
お父様が65歳になった2019年に経営権を引き継いで、美瑛大西農場をスタートしました。
育てた自慢の小麦は、地元のお店や東京のパン屋に出荷
美瑛大西農場では小麦を中心に、ジャガイモや黒大豆、ビート(テンサイ)などを生産していますが、小麦は美瑛町でもあまり栽培している農家はいないため、こだわりをもって育てています。
「育てた小麦は地元のお店や東京のパン屋さんにも卸しています。東京駅にも店舗がある「ブーランジェリー ラ・テール」さんなどにも使っていただいているんですが、お客さんに喜んでもらえるように、手間暇かけて育てています」。
また、「土壌からもらった栄養は、きちんと土に返したいんです」と土づくりにもこだわり、堆肥には有機物を使い、残渣もなるべくすき込んで、極力自然に還元するよう工夫しているそうです。
農業と観光業の両立を目指して畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」を発足
美瑛大西農場がある美瑛町の北瑛という地区は、「パッチワークの丘」で有名な素晴らしい丘陵地帯です。
毎年たくさんの観光客が国内外から美瑛町に押し寄せますが、農地の景観をバックに写真を撮影しようと観光客が畑に入ってきてしまうという問題がありました。
農家としては、単に耕した畑が踏み荒らされるというだけでなく、靴についた病原菌や病害虫が持ち込まれることも大きな脅威になります。
また、違法駐車された車が道路を塞ぎ、トラクターの通行の妨げになるなどの問題も起きていました。
たくさんの観光客が来ているのに、農家の人たちからはポジティブに受け止められていないという現状をどうにかしたいと考えた大西さんは、リーダーとして畑看板プロジェクト「ブラウマンの空庭。」を発足しました。
※「ブラウマン」は自分たちを表す造語で、「ブラウ」は親世代がプラウという農耕機械を「ブラウ」や「ブラオ」と呼んでいたことから、また、plow(耕す)を訛るとそう聞こえることに由来しているそうです。ブラウマンにとって、庭である畑と空を併せた美しい景観を象徴して「空庭」と名づけました。
「立入禁止の看板ではなく、農家の思いを直接伝えられるような看板を立て、美しい美瑛の景観は農家の営みによるものであることを感じてもらおう」というアイデアから、農家の仕事を発信し、農家と観光客の情報交換ができる看板を制作。
看板にはQRコードを貼り付け、QRコード決済を利用して風景に対して投げ銭をしてもらう仕組みも作りました。
現在では、販売にもシフトしていこうと、看板が立っている畑で収穫された農産物を、看板のQRコードから購入できるような仕組みを構築しています。
効率化をするために、作業工程の見直し
農作業だけでなく、経営者としての仕事もひとりで行っている大西さん。「ブラウマンの空庭。」のリーダーとしても活動しているため多忙な日々を過ごしています。
そんな大西さんに仕事のやりがいを伺ったところ「やっぱり収穫量を上げることですね。生産量を測っていますが、同じ農地の面積でどれだけたくさん取れたか。生産量があがったときは嬉しいです」。
また、働き方にも工夫をされていて「作物ごとに、どれくらいの時間働いているのか計算しています。いかに仕事を減らすかを目標に、機械化や工程の見直しを行っています。「昔からやっているから」という理由で続けている無駄な仕事は、止めるようにしています」。
こういった工夫を行うことで、農作業だけでなく、「ブラウマンの空庭。」や経営者としての仕事も回しているそうです。
さらに、事務作業は悪天候の日や、雪が降って畑に出られない日にまとめて作業。
「事務作業は基本的に悪天候の日にやっています。契約している出荷先とのやりとりはLINEなので、そんなに大変じゃないですが、基本ひとりでやってますね」。
サラリーマンから農家になった大西さんは、農家になった直後、繁忙期に休みがない生活に慣れるまで大変だったと話してくれましたが、今では「農家は割と自分で時間やスケジュールを決められるんです。雪が降ると農作業ができないので、事務作業を片付けてしまったり。僕はスノーボードや旅行が趣味なので、冬の間は楽しめるんですよ」。
「農家は仕事をしていてもひとりの時間が多いんです。仕事を終えたときに、ふと感じる空気のキレイさや空の広さ。その時、良い仕事だなって思えます」と話してくれました。
農家さんで採用になれている人は少ない。でも、みんな人材を求めているんです
「僕も含めて農家はリクルーターとしての視点を持っていないので、農業に興味がある人とどういう接点もっていったらいいのか、わかっていません。つまり、「こういう人が欲しい」などの情報の発信に慣れていないんです。でも、人材を求めている農家はいっぱいいるので、頑張ってください」。
また、大西さんに欲しい人材を伺ったところ、「僕と年齢差が前後3歳くらい。60歳でリタイアしたいので、それまで一緒に付き合ってくれる人がいいな」と笑顔で答えてくれました。
美瑛大西農場
北海道上川郡美瑛町北海道上川郡美瑛町字北瑛第
小麦、大豆、ばれいしょ、てんさい